じつは、3密回避の日常は「薄利多売」に依存していた社会の課題を突き付けていると思うんです。
ブログを書いていないと時節柄「大丈夫?」と心配をおかけしてしまうのは知っていたが、またまたご無沙汰をして心配していただいた。
「3密回避の日常を快適だと感じている派」なので、心身ともに大変、元気です!
8月は「八月花形歌舞伎」の観覧にも出かけた。
以前は「昼の部」「夜の部」で各2演目ずつだった歌舞伎であるが、コロナ対策で一幕ごとにチケットを購入するシステムになっている。
前後左右の客席は空席という座席は「逆ビンゴ」状態。飲食は原則禁止(水分補給はOK)。会話もNG。
当然、歌舞伎の名物「大向こう」も禁止である。
大向こうとは「待ってました!」とか「〇〇屋!」といった掛け声のことだ。絶妙なタイミングでナイスな大向こうができる、というのは歌舞伎通の証。熟練者と思しき、お爺さん世代を中心に大向こうによる盛り上げがされてきた。
ちなみに、出待ちも入り待ちも、楽屋訪問も役者へのプレゼント、差し入れ、お手紙も一切、禁止である。
観客から演者に送れるのは「拍手」のみ。
歌舞伎を愛する人たちにとっては「味気ない」と思われる状態であるが、「江戸時代から続く歌舞伎の歴史の中でも、こんな上演方法はいまだかつてなかったはず。歴史的な瞬間である」と超ポジティブシンキングで鑑賞に出かけた。
演目は愛之助さんが観たいという理由で「連獅子」を選んだ。
結論から言うと、私はこのイレギュラーな上演方法も「なかなか良いではないか」と思った派であった。もちろん、収益面で考えたら大打撃であるし、こんなスタイルで続けられるはずがない。
しかし。
前後左右が空席というのは、快適性を格段にアップしていた。
「やたらともぞもぞ動いたり、1等席なのにイビキをかいて爆睡するおっさんとか、おしゃべりが止まらないご婦人グループ」
といった人たちと隣り合う心配がない。
1等席のチケットは16000円もするのに、イビキおやじと隣り合った日には、ストレス最高潮である。こういうところで寝る人のイビキは止まる。そう、睡眠時無呼吸症候群が疑われるタイプ。夜、ちゃんと眠れてないから1等席に座って居眠りをするのである。
イビキが止まるたびに「1,2,3~」と心の中で呼吸が止まっている時間をカウントしてしまうので(そう、私は案外、人が好い)、勘弁してほしい。
「連獅子」は以前にも観たことがあり、舞台上でのソーシャルディスタンスの徹底も興味深かった。
歌舞伎は地方(じかた)と呼ばれる演奏者による、生演奏であるが、明らかに人数が少なく、そして間隔もとられていた。少ない演奏者でもしっかりと音を出すプロの仕事に感動した。地方さんたちは黒い、越中ふんどしのような形状のマスクを装着しており、笛などはさぞかし演奏しにくいに違いない。マスクをしていると視界が遮られるので、三味線も太鼓も手元が良く見えないだろう。
役者陣はノンマスクなので、セリフのあるシーンは向かい合っている距離が遠い。お互いの距離が遠いとどうなるか? というと舞台上で移動する距離が延びるわけであり、動きには素早さを求められるはずだ。
そんな不自由さを一切感じさせることなく。
役者さん、地方さんのプロの情熱が客席にビシバシと届いてきた。
客が送れるのは「拍手」のみである。
全員が「前後左右の座席の分も含めて、5人前ぐらいの拍手を送る」と心に決めたようだった。実際の客数以上の拍手が客席から湧き上がった。
それでも、舞台と客席が一体感に包まれた。
私は人生史上、最高の集中力で心から歌舞伎を楽しむことができたように感じた。
観賞後の充実感も、自分史上、最高であった。
1時間という上演時間は「もうちょっと観たい」という気持ちである。
でも、そのぐらいが一番、喜びを感じられる塩梅なのだとも思う。
日中の山手線が空いている。銀座も空いている。「経済」を抜きにすれば、この「空いている」という状態は、じつに快適である。
つまり「大入り」「大盛況」「大混雑」という「売り上げ的にはウハウハ」な状態は、ストレスフルだった、ということだ。
薄利多売の方向にシフトせざるを得なかったデフレは、消費することの喜びもまた、薄くしていたのだろう。
1等席での今回の歌舞伎鑑賞は1時間8000円。
決して安くはない。けれど、満足度を思えば妥当に感じる。
デフレ脱却をうたい物価は上昇させたものの、実質賃金を下げまくった安倍政権が、ここにきて終焉を迎えるのも、自然の摂理なのだろう。
3密の回避による快適さに人々が目覚めてしまった。
3密回避や移動の制限で打撃を受けた業界の人々も実質、鎖国状態で住人以外の人が大移動しない今を「とはいえ快適」と感じているのも事実である。
さて、これからどんな時代になっていくのか?
地球規模での歴史的な瞬間に立ち会っている、と考えるとワクワクしてくる。
今日も読んでくださって、ありがとうございました♪
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