私、締め切り守るので。

こんにちは。栗原貴子です。

フリーランス稼業も気づけば早18年になります私としては、フリーランスの外科医・大門未知子が活躍する『ドクターX』の新シリーズが始まり、喜びに満ちております。大門先生に一方的な親しみを覚える今日この頃です。

私の仕事は

「私、失敗しないので」

と目ヂカラMAXで言えるような職種ではありませんし、失敗しても今、話題の校閲さんたちのおかげで、失敗をフォローするチャンスがあります。

鼻の穴を膨らませないように気を付けながら、目ヂカラをMAXにして言えるとしたら、

「私、締め切り守るので」

くらいですが、そんな発言をする機会は現実にはありません。

とはいえ、ご時世によるものでしょうか。

「フリーランスってすごいよね」

「18年もやってきたなんて!!」

「自分ひとりで仕事ができるっていいね」

と言われるようになりました。どうやら、ニッポンってもう25年くらい「不景気」といわれる状態が続いているらしいこと。さらには、「働く」ことが年を追うごとに少しずつ厳しくつらいものとなってきた中、自由業への憧れ指数が急上昇したものと思われます。

私がフリーになった頃は、賃貸物件の入居には「大家さんにこの人は怪しくないと納得していただく必要があります」と不動産屋さんで言われて、不動産やのお兄さんと一緒に「このような雑誌でお仕事をしています」と掲載誌片手に面接に行ったりしておりました。好奇心でモデルルームなどに行き、購入を勧められても

「あ、私、フリーランスなんで」

と言えば、しつこく営業されることもなく『お引き取りください』ムードで速やかに帰宅することができました。

それが、今やどうでしょう。

たまたま、近所にあった建売住宅のオープンハウスを通りがかりに見物でもしようものなら。そして、今のお家賃をうっかり漏らしてしまおうものなら。

「お家賃=支払い能力」という方程式により


「この人、私のことが好きなのかしら?」


ってぐらい熱烈にアタックされます。

フリーランスの社会的な地位向上は喜ばしい限りですが、それが「不景気」によってもたらされているという事実が見えないほど、私はおバカさんではありません。

営業マンに

「18年も続けていらっしゃるって、すごいですね」

といわれて、

「私、締め切り守るので」

と言ってみたところ、

「そうですか。それはそれは素晴らしいですね!」

と、返ってきてギャグが滑ったことを悟りました。


どうも、「そういう冗談を言わなさそう」な見た目らしく。

今、モデルを務めております眼鏡『Sプロローグ』のメーカーの女性の社長さんも

「私、貴子さんみたいな気の強そうなお顔の方、好き💛」

とおっしゃってくださっていて、『やっぱり私はそういう顔なんだね』と、メイクをするときに「優しそう」に見えることを狙って工夫をしたりもするのですが、毎年、初夏のころには名刺交換の際に

手が震えている

新人さんと何度かお目にかかるものです。

お若いのに、そんなに手が震えてどこかお悪いの? と思いつつも、あたくし、新人さんが次の人とは普通に名刺交換をしている様子を横目でチェックしておりますのよ。


ごめんね! 威圧的でっ!


見た目とはうらはらに、案外、小心者で心優しいところもあるんですよ。

フリーランスなんて自由気ままそうではありますが、なんだかんだ男社会のニッポンにおいて女ひとりで世間を渡る厳しさを痛感したことは、一度や二度ではありません。

大門未知子先生のように「メロンです💛請求書です💛」ってやってくれるマネージャーもおりませんしね。

とはいえ、「加齢」という素晴らしきシステムによって、ちょっとでも意見を述べようものなら「生意気だ」と怒られるような理不尽を味わうこともなくなりました。その点、白い巨塔で奮闘されている大門先生は大変だなあと思います。業界の違いですね。

大門先生のキメ台詞で「私、早いので」というのがたまにでてきますが、あれは、私も使えるフレーズなので、今か今かと出番を待っています。

私も原稿書くの、早いので。

「栗原さん、締め切りなのですが〇日で大丈夫ですか?」

なんて聞かれたら

「私、早いので」

と言いたいのですが、

誰も、尋ねてくれません。

このように、好きなドラマを観ることができるのは、フリーランサーの「よいところ」かも知れません。

自宅兼事務所ですので、通勤時間0分。

これは、片道1時間半かけて通勤している人と比べると、1日3時間もの違いになります。この差が「ドラマを観る時間」になるのですね。毎日、家にいるわけじゃありませんが、自宅にいる日は掃除も洗濯も「仕事の合間の気分転換」にこなすことができます。


さらに、「勤務時間の拘束なし」ですので「今日は5時間労働だな」なんて日もあります。平日に個人的な用事で予定を入れることも可能だし、映画は水曜日のレディースデーを使えます。しかし、1日10時間以上働く日もあるし、土日に原稿を書くこともしょっちゅうです。長期休暇は取ろうと思えば取れますが、取りそびれることのほうが多い。最近は出張がてらの小旅行を楽しむぐらいの図太さを身につけましたが、若かりし頃は小心者だったので、出張に行ったらとんぼ返りしてPCに向かっておりました。


つまり、

ぜーんぶ、自由なんです。

人は、自由が多ければ多いほど「不安」を感じるそうで。

究極に不自由な環境である刑務所にいる受刑者の人たちは「不安」は少ないのだそう。まあ、外国の刑務所は違うでしょうが、日本の刑務所は出所してもすぐ戻ってくるリピーターさんがいるぐらいなので、安心して暮らせる環境なのでしょう。


つまり、究極に「自由」を満喫できる「能天気な脳」を持っていることが、フリーランスに必要な素質です。「自由」を「不安」に変換しはじめてしまうと、一気に不安モードに傾きますので、自分のコンディションを良好に保つことを日々、意識しておくことが大事です。私は『フクロウ型』と呼ばれる、遺伝的に夜型傾向な体質な上、「生きてますか~?」ってぐらいの超低血圧なので午前中は不得意です。一度、朝型になろうと決めて6時起床を実践していた時期もあったのですが……。


3か月目に発熱し、体調がすぐれない日々を送る羽目に。


こうした体質もフリーランスであることにメリットを感じる理由になっているのでしょう。


最近、「旧来型の日本企業の働き方を見直すべき時期だ」というような記事をあちこちで見かけます。確かに、そのような時期なのだろうなと思う。でも、そういうときに代替案として「在宅勤務」とか「フリーランス」「起業」「地方移住」なんてワードが出てくるのですが、


あああ、それはどうかな?

と思うのです。「会社勤めが大変だから、フリーランスに」っていうのは、極端すぎるし、性格的な「向き不向き」が大きいことだから。

もっと、丁寧にそこんとこも説明して~!

お願いだから~~~!


固定給がないという不安に押しつぶされちゃう人もいるし。

「会社名」がなくなった状態に「唖然」とする人もいる。18年も続けていると、クレジットカードの審査も通るし、住まいも借りられるけれど、5年目ぐらいまでは厳しいはず。


フリーランスライターだということで、思わぬ差別を受けることもある。


以前、国会議員の取材に行ったときに、編集者さんと議員会館でしたっけ? 議員さんの事務所のある建物のロビーで待ち合わせをしたことがあったのですが。

セキュリティーチェックの際に、身分証を求められ運転免許証を差し出したところ、それではダメで「所属している組織がない」という理由で、建物に入ることができず。


議員は無所属でもよいのに、

ライターはダメなんですか?


と、持ち前の威圧的なオーラを120%増量して、歯向かったところ。

私の後ろに並んでいた記者の人たちが

「そうだ! そうだ!」

「おかしいぞ!」

「職業差別だ!」

と味方してくれて。

ちょっとした騒ぎに。

〇〇先生にちゃんとアポをとっています。

なんなら、電話して聞いてください!

味方を得ていい気分になり、威圧度をさらに30%くらい増してみたところ、通過することができました。

やっとの思いで待ち合わせ場所に行き、少し遅刻してしまったので「すみません。セキュリティーでひっかかってしまって」と編集者さんに謝ると、

「あの騒ぎは、栗原さんでしたか!さすがです!」

褒められました。


『っていうか。

メンバーの中で唯一、所属組織のあるあんたが、外で待ち合わせしてくれたらこんなことにならなかったんだよ?』


そんな日もありました。


このようなハプニングも「えへへ。ここまで聞こえちゃいました?」なんて言えるのは、私が自ら望んでフリーランスになったから。


けれど、

もしも「会社がツラいから」という消極的な理由で、フリーランスを選んでいたら続けてこられなかったでしょう。都心部は人口が増えているので、通勤電車の混雑率も格段にアップしていると聞きます。電車の窓が人の圧で破損する事態です。会社での仕事や人間関係も、かつてに比べたらシビアになっていると思います。

でも、それが苦しいならば。

その苦しみから逃れるためではなくて、それを機に、自分が望む生き方を選択して欲しいな~って思うのでした。

栗原貴子のでこぼこオンナ道

栗原貴子/編集・ライター、コピーライター フリーランス歴23年。広告、宣伝、啓蒙につながるクリエイティブ制作、コピーライティングが得意。2019年より きもの伝道師 貴楽名義で着付けパーソナルレッスンを中心に活動開始。きもの歴は四半世紀越え。