文章は素材にどんな味付けをするかで仕上がりが決まります。
水曜日は美容院にいきました。混雑を避け、平日に美容院に行くことができるのは、フリーランスのメリットであります。私は毛量が多いので美容院に滞在している時間が極めて長い。他のお客様への「ありがとうございました」というスタッフの声につられて「ありがとうございました!」と元気に言ってしまうほどに馴染んでいます。先日は、私より先にお帰りになったお客様がスタッフにセブンイレブン限定のチロルチョコを差し入れに戻ってきたとき「隣のお席の、おもしろい女性にもどうぞ💛」と私の分まで数に入れていただきました。馴染みすぎだろっと自分に突っ込み。
さて。
美容院が終わり、スマホを見ると留守電が入っていました。
お仕事先の方からの悲壮感たっぷりの声での
「助けてください……」
という留守電が。
今わの際での電話を頂戴するような間柄ではないので、冷静に考えなくても、これはすなわちお仕事で何か問題が発生しているのだとピンときました。
折り返してみると
「ライターさんの原稿がいまひとつで、書き直していただきたいのですが……」
私の予想通りの内容でした。
この道、長くやっていますとたまにあるのです。
他の人の文章を「直してください」という依頼が。
自分の原稿がそんな風に、ほかのライターさんにバトンタッチされていたら……と想像すると眠れなくなりそうですが、今は人のことを心配する前に自分がこのSOSに対して「できるかどうか」を判断しなくてはならない。
しかし。
具体的に何をするのかを電話口で質問したものの、要領を得ない。
コラムを4本というのは分かった。
けれど、時々「座談会」という言葉も入ってくる。
座談会のまとめとコラムは違うし。
文字数を尋ねると「どのくらいだろう? そんなに多くはないです」。
今の原稿のどこがダメなのかを尋ねると「面白くないのです」。
この事態に、相当、テンパっているのでしょうか。
質問を続けても欲しい答えは返ってこないと判断して、
「まあ、なんとかなるでしょう」
と言ってしまいました。
翌日の打ち合わせの結果。
私は、芽の出たジャガイモを使って「めっちゃおいしい料理にしてください」と頼まれているのだと理解しました。
私のお仕事先の方々はすっかり困り果てていました。
ここに至るまでに、ものすごいご苦労があったみたいです。
文章も料理と同じく「材料」が大事です。
料理の場合、素材がよければ塩コショウだけでも「おいしー」ように。
人の取材モノの文章の場合、
おもしろいこと喋ってくれる人
話が整理されている人
エピソードに山場を作って話せる人
などは「よい素材」を提供してくれるタイプです。
いまいちな素材の場合、かなり「味付け」が必要です。
素材のいまいち加減をごまかすべく、味付けの方で美味を感じてもらう作戦です。
今回は「味付けの妙技」でなんとか「おいしいでしょ?」という料理に仕立てている途中でございます。
さて。
文章を書くと言うことに対して、畏怖の念に近い恐れを抱いている人がいる対極に「そんなの簡単でしょ? あんた、売文業なんだからさっ」という態度を隠そうとしない人がいます。明らかに見下しているんだよね。
「売文業と言われて、ついカッとなって……」
という報道に接したときに『ああ、栗原さんとうとうやっちまったか』と思ってください。
とはいえ、
私は低血圧なのでめったにカッとならない。
しばらくしてから「あれ、ちょっとどころじゃない。すごくムカつく」と気づくタイプ。
その時差はだいたい、東京とNYくらいです。
なので「ついカッとなって……」という衝動的犯行ではなく、計画的犯行に向いていると思う。アリバイ工作もバッチリ考えるし、おそらく
自分の手は汚さないで目的を果たす
計画を練ると思います。
だいたい「売〇」という言葉はケンカフレーズですよね。
「この売〇が!!」
「この売〇〇が!!」
という用法がしっくりくる。
つまり「汚い言葉」「人を傷つける言葉」に分類されるのが「売〇」なのです。
というようなことを、私のような仕事をしている人たちはよく知っているわけですね。
この語彙力を駆使して、
インタビュー原稿の場合、元のネタが芽の生えたジャガイモだった場合、豊富な語彙で言い換えて、起伏を作るなどの演出をほどこして、
すごい話
おもしろい話
ためになる話
に仕上げるのです。
要するに「語り方」次第。
つまり、「語り手」の発言が「そのままでも、十分におもしろいです。興味深々です」という場合、文章も自動的に面白くなります。
インタビューの場合は、インタビューされるような人は「ご立派なこと」をしています。しかし、本人が謙遜しまくって「たいしたことのない話なんです」という仕立てで話してしまうことがあります。
どんな偉業であっても、淡々と当の本人が語ってしまったら、残念ですが『あ~、本人も『たいしたことない』と言ってるし。実際そうなのかな~』と聞こえてしまいます。その雰囲気を真に受けて原稿を書いてしまったら、「たいしたことない」雰囲気がにじみ出る文章が出来上がります。
「たいしたことレベルがどのぐらいなのか」を、よーく耳を澄ませて聞き取る能力がインタビュアーには欠かせません。
その上で、
「感激しました」というような凡庸な発言を「胸が熱くなりました」といった格好良さげな言い回しに置き換えたり。
「芽の出たジャガイモでめっちゃおいしい料理を作ってくださいと頼まれたようなものだ」
というような比喩的表現を使用して状況説明を一般化し、感情の共有を意図していきます。
ここで「芽の出たジャガイモ」を「腐った卵」としても意味は通じます。
でも、読み手に対して「腐った卵」は「おえ~」という気持ちを想起させてしまいます。
ですので、ここは「芽の出たジャガイモ」という表現を、あたくしは選んだ次第です。
汚い、気持ち悪い、お下品、お下劣
な直接的な言葉を回避して表現するのも、テクニックのひとつです。
それは、ブログやSNSで「自分のこと」を発信するときも同じです。
自分で自分のビジネスについてPRする際には、どうしても「たいしたもんじゃございませんで」という風情になりがちです。その心理が控えめな表現になってしまいます。
『自分のことを書くのは気が引けちゃう』という方もいらっしゃるでしょう。
しかし
謙遜した文章表現は「謙遜していること」が伝わらないため、「ふーん。たいしたことないじゃん」と思われてしまう。
「そんなの、みんなやってるのでは?」
「誰でもできるのでは?」
と思われたら、心外じゃないですかっ!!!
なので、「ちょっと下駄を履かせる」ぐらいでちょうどいいのです。
映画の宣伝文句、「全米が泣いた!」というフレーズは、誰が見ても「盛りすぎ」です。
でも「全米が泣いた!といっても過言ではないぐらいの感動作なんだな」と感じ、興味を持ちます。
それくらいで、ちょうどよいのです。
ただ、例外的に美容や健康に関するビジネスをされている方の場合、表現には注意が必要になりますので「ちょっと下駄を履く」は当てはまりませんので、ご注意くださいね。
さてさて。
そろそろ、おいしいく文章を味付けするお仕事に戻ります!
0コメント