2021年もありがとうございました!

今日が大晦日とは、にわかに信じられない。

それぐらい、2021年はあっという間であった。

自宅近くの緑豊かなカフェでスイーツと読書を楽しんだと思しき写真。これだけ見ると、毎日を優雅に過ごしてきたように、我ながら錯覚する。実際には、思い出の9割が「仕事」な1年であった。


そして、仕事をしていてもいろんなことをポロポロと忘れ、いよいよ「メモを取ることすら忘れる」という事態に陥った。さすがに、脳ミソの具合が心配になって、12月に入ってすぐに人間ドックの予約をした。生まれて初めてのMRI検査に対して鼓動が高鳴ったが、もはや「ときめき」なのか「動揺」なのか区別がつかない。29日の午前中の枠に空きがあった。


しかし、人間ドック当日を迎える前の17日。私は「カフェを出るときに段差を見逃して、派手に転倒する」というアクシデントに見舞われた。撮影が無事に終わり、カメラマンとライターと食事をした店でのことだ。みな、私が膝を強打したと思っていた。私も確かに左膝が痛むので、そうだとばかり思っていた。


ところが、帰宅してしばらくすると右手首が痛み始めた。入浴しようと服を脱ぐと、肘に切り傷もできていた。服は切れてないのに、皮膚が切れているのは何故なのだろうか。不思議である。右手首の痛みはどんどん増していき『折れてるかもな』と思わせるほどであった。


洗顔も歯磨きもろくにできない。


とりあえず、頭からシャワーを浴び、左手で洗髪。歯磨きは「歯ブラシではなく頭を動かす」という手法を試みたが、気分が悪くなりかけたので、手首を固定して静かに磨いた。いつもは右手で持っているドライヤーを左手で持って、手首をスイングさせる。ドライヤーと頭の距離感がよくつかめなくて、ドライヤーで自分の頭を殴打。『セルフDV』に泣けてきたが、髪を乾かすことに集中する。よりによって、今の私は背中のなかほどまで届く、ロングヘアなのだ。


『寝れば治るかも』と期待を込めて就寝したが、痛みで目が覚めた。


もしも、骨折していたら。もしも、全治3か月とかだったら。髪を切るしかない、と腹をくくった。18日は土曜日であったが、午前中に診療している整形外科に向かうべく準備をはじめた。しかし、歯磨き、洗顔、着替えもままならず身支度だけで疲労困憊した上に「折れてるかも」と一晩中、クヨクヨしていたせいもあって、徒歩20分の道のりを歩く気力がわかずタクシーを止めた。


整形外科はわりと混んでいたが、なぜかそうそうに診察してもらえることになった。ドクターに「店を出るときに、段差を見逃して転んだ」と告げると「盛り上がっちゃった?」と聞かれた。

「先生。それが、アルコールを一滴も飲んでいないのに、転んだのです」

と告げると「それは、ショックですね」と共感してくれ、レントゲン撮影をすることになった。

「ポーズをかえて3カット撮ります」

とドクターからポージングを受ける。最初は手のひらを下に向けたポーズ。次は街なかなどでおおっぴらにやってはいけない、中指を立てるやつであった。そう、右手中指にも痛みと痣が発生していたのである。

最後のポーズは、小学生の男子が「カ〇チョー」などと叫びながらふざけていた時のようなものであった。右手中指を少し反らせた状態で撮るべく、左手の人差し指で右手中指を押すのである。

「先生、こうですか?」

「うーんとね、この指をこう!」


中年の男女が「カ〇チョー」のポーズを「もう少し、指を伸ばして」などと指導し、指導されているのがおかしくなってきてドクターも私も「ふふふ」と笑い合う。レントゲン撮影が終わったとき少し、愉快な気持ちになっていた。


しかし、この後、私に突き付けられるであろう「骨折ショック」を少しでも和らげようという、ドクターの思いやりだったのかもしれないと、待合室で待つ間、ものすごい角度で被害妄想に陥った。ポーズをとったせいか、手首の痛みも増してきたような気がした。


再び、診察室に呼ばれた。審判のときである。


モニターに私のレントゲン写真が映し出される。画像をめいいっぱい拡大し、画面に顔を近づけるドクター。見たところでわかりゃしないのに、私もつられて前のめりになってモニターを凝視した。


3番目の「カ〇チョー」レントゲンがなかなか、シュールだったので思わず「こんなレントゲン、初めて撮りました」と感想を述べる私を「あんまり撮らないよね」と相手しつつ、ドクターは一生懸命、レントゲン写真を凝視してくれていた。

「折れて、、、、ない。ここも、折れてない。うん。折れてないです!」

「あ、ありがとうございます!」

折れてないのはドクターのおかげではないが、思わず口からお礼の言葉が飛び出てしまった。

「関節も骨も、きれいですね。中指は打撲、手首は捻挫ですね」

レントゲンであっても、写真を「きれい」と言われるとうれしいものである。そして、右ひじから指先までの狭いエリアに「切り傷」「捻挫」「打撲」と異なる症状を一個ずつ作り出すなんて、我ながら器用だな、と感心した。


折れてない、とはいえ痛い。中指には「しわしわ」とドクターとナースが呼んでいたテーピングを。手首には包帯を巻かれ、ちょっと重症っぽいたたずまいであった。しかし、包帯やテープがないと「つい、使ってしまう」ので大げさなぐらいでないとダメなのだ。


「折れていない」とわかった安堵と、ロキソニンが配合された湿布薬のおかげで、激しい痛みは早々に引いた。しかし「ちょっと使うとやっぱり痛い」という状態が続いていた。


そうこうしているうちに、人間ドックの日が近づいてきて私は事前にやるべきあの「ブツの採取ミッション」を忘れていたことを思い出した。小ぶりの容器に細心の注意を払わなくてはならないブツの採取は、右手負傷の身にはなかなかハードルが高い。とはいえ、このミッションは誰かに助けを求めるわけにもいかない。


採取キットとともに届いたお知らせをしげしげ眺めると「後日郵送」も可能であることが記されていてほっとした。とはいえ、この採取は手首のスナップを利かせる必要がないので、なんとかクリアできた。手首を負傷すると困るのは、食器洗いと炒め物、包丁を使うなどの炊事全般。洗濯物を干す前にパンパンと洗濯物を振るときと拭き掃除に加え、ドライヤーをかける動作である。案外、PCでキーボードを打つ動作はできてしまうことが判明し、仕事は休む必要がないのだな、ということを知った。


いよいよ迎えた人間ドックもまた、試練の1日であった。が、長くなるのでまた改めて書こうと思う。


打撲と捻挫はだいたい治るまでに最低でも2週間はかかるらしく、私の場合、大晦日の今日で2週間目だ。しかし、調子に乗って少し拭き掃除をしたら痛み始めたので、慌ててロキソニン湿布を貼った。もはや、神様が私に「大掃除とかさ、そういうのいいから。ちゃんとお宅にも年神、行くからさ。休みなさい、だらだらしなさい」と言ってくれているのだと、勝手に解釈している。


私の2021年の締めくくりは、そんなこんなでありましたが。

大事に至ることなく、無事に新年を迎えられることが、ありがたくシミジミしております。

本年もありがとうございました!

皆様にとって、2022年が素晴らしい年になりますことを心よりお祈り申し上げます。



















栗原貴子のでこぼこオンナ道

栗原貴子/編集・ライター、コピーライター フリーランス歴23年。広告、宣伝、啓蒙につながるクリエイティブ制作、コピーライティングが得意。2019年より きもの伝道師 貴楽名義で着付けパーソナルレッスンを中心に活動開始。きもの歴は四半世紀越え。