ステイホームに燃え尽きかけて、温泉宿への逃避行

先週、ついに、とうとう燃え尽きかけた。

この2年、自分史上最高の在宅時間を記録していると思う。もともと「おうち、大好き」タイプであり、在宅時間が長い傾向にあるがさすがに、勘弁してくださいレベル。

振り返れば、「おうち、大好き」であっても、打ち合わせ、取材、出張などで仕事でもちょくちょく、お出かけしていた。そうした、お出かけがあっての「おうち、大好き」なのである。「やっぱ、家はいちばんいいな」というセリフは「家ではないどこかで過ごしたからこそ言えるセリフ」なのだ。


家にいて、何がしんどいかってあなた。「食事のための買い物と調理、後片付けといった一連の家事」「入浴に付随する、風呂掃除という家事」「快適さをアップしようと考えたときに発生する掃除という家事」といった風に、いちいち「家事」が不随してくる点である。


外食の素晴しい点は「〇〇ください」と言えば調理済みの料理が目の前に運ばれてきて、おいしくいただいた後は、「汚れたお皿をシンクにもっていく」ことすらせずに、「ごちそうさま」と立ち去ってもよい点にある。もちろん、「プロが作ってくれたからおいしい」ということもあるが、おいしさ以上に「上げ膳、据え膳」の魅力がたまらなない。


私はもともと、家事がさほど苦にならない性格ではあるし、家事が嫌いではない。


しかし。


家にいることに疲れた今の私にとって、家事は「めんどくさい」の極みである。


この心理状態に必要なのは、「究極の上げ膳、据え膳」。

つまり「旅館に泊まる」である。


木曜の夜に、週末泊まれる温泉宿を衝動的に予約した。これで、土曜日の夜ごはん、風呂、日曜日の朝ごはんの準備をやってもらえる。献立をどうしようとか、「卵あったっけ?」などと冷蔵庫の在庫の心配など一切、しなくてよい。そう思っただけで、気持ちが楽になった。


オミクロン株が~といっている時節柄、「週末、温泉に行くんだ♪」のような告知をしないほうがかえってよい、という風潮もいい。隠密に行動しよう、と心に決めた。


唯一の心配は、週末にやるつもりだった原稿書きだったが「電車の中でやればいい」と気づいた。衝動的に予約したため、目的の宿まで特急列車に乗っても3時間近くかかることを、後で知ったのだ。宿題の原稿は、2時間あれば片づけられる分量であることは、長年の経験からわかっていた。


しかし、である。


もともと「おうち、大好き」な私をここまで追い詰めるとは。コロナ禍による、ステイホームとか外出自粛などで、どれほど私たちは心を蝕まれているのだろうか、とつくづく思う。

ただ、ぼーっとしていたら気持ちが下がる一方だ、というのは当初からうすうす気づいていたので「落ち込まないように」と気を引き締めていた。要するに、気張っていたわけで。その気張りのおかげで、なんとか平静を保っているともいえるけれど、気張っている分だけ疲弊もしているわけで。ほんとに、勘弁してください、である。


さらに、勘弁してほしい事態がある。


ステイホームとか自粛という制約は、すべての人に平等に課せられている、といえる。そんな中で「自分が一番、大変なの!」的なふるまいをする方がいる。


いや、みんなそれぞれに大変なんですよ? と思うが、こういう人は、自分のことを「大変オブ ザ イヤー」だと思っているうえに、「自分の機嫌を自分で取れない」という致命的な弱点がある。それによって、イライラを周囲にふりまいたり、八つ当たりしたり、意地の悪い言動をしたりする。


みんな、それぞれに疲弊しながらも「なんとか、やっている」ギリギリの中で、こういう振る舞いの破壊力は抜群である。


みんなの今の気持ちはね。


ボロボロのつり橋、みたいな感じなんですよ。

そーっと、そーっとでなんとか渡れるけれど。そんなつり橋でジャンプでもしようものなら、あなた。ブチっといきます、ロープがね。


みんなが、それなりにフレッシュな感じのしっかりした吊り橋だったころは、あなたのジャンプも「大丈夫」と涼しい顔で受け止めることができたでしょう。でも、もうボロボロなの。そこんとこ、よろしくね!


とまあ、こんな感じにみんなの心が疲れ切っている中で、自称「大変オブ ザ イヤー」な方がそのストレスのはけ口をどういうわけか「人」に向けるので、ますます、社会全体がどんよりしてきているように感じて。


温泉宿へと逃避行したのです。


帰宅した今、行ってよかったと心から思う。1泊2日ではもちろん、完全回復とまではいかないがつかの間の「極楽、極楽」で復活できた。


文豪がよく、温泉地で逗留して作品書いていましたけれど。

平成になってからも、作家の方々はしばし「ホテルに缶詰め」とかされていましたけれど。


身の回りの世話をしてくれる宿泊施設に滞在していれば、名作が生まれるわけだ!


と多いに納得。

「早起きして日の出をみよう!」というプランも、冬であれば「日の出時刻6時39分」ぐらいであり、少々の頑張りで済む点もよいな、と思った。前日、上げ膳据え膳の晩御飯が18時スタート。ゆっくり召し上がっても19時30分。 温泉に入って髪を乾かしたりしていても、21:30には「寝られる状態」になっていて、布団に入ればすぐに寝てしまう体質ゆえ、22時には消灯していたので、たいして頑張らなくても起きられたのである。


この前夜、夜空を見上げたら、あまりにも星がたくさんまたたいていて「幻覚?」と動揺した。リアル星空であると気づき「おお、プラネタリウムみたい!」と事態を飲み込んだが、プラネタリウムが満天の星空をマネっ子しているので当たり前だ。


この逃避行2日目。私はいわゆる「神社に呼ばれてたんだな」と気づく体験をした。逃避行の発案そのものが呼ばれていたのかもしれないが、「上げ膳、据え膳される喜び」を満喫しすぎていて全く気づきもしかかった。呼び出しがいのない人間で神様に申し訳ない。


ということで。

つづく。




栗原貴子のでこぼこオンナ道

栗原貴子/編集・ライター、コピーライター フリーランス歴23年。広告、宣伝、啓蒙につながるクリエイティブ制作、コピーライティングが得意。2019年より きもの伝道師 貴楽名義で着付けパーソナルレッスンを中心に活動開始。きもの歴は四半世紀越え。