自分を立て直しながら「便利の代償」に思いを馳せた2月。

この1年半ほど、いわゆる激務が続いていた。

まあ、いろいろあっての激務だったわけで、詳細は省くけれど『20代じゃあるまいし、うっかりするとヤバいかも』とさすがに不安になって、年末に脳のMRIつきの人間ドックを受診した。結果は「ピロリ菌の抗体の数値が高め」以外は問題なしであった。


ピロリ菌は幼少期に感染するので、激務とは無関係である。

感染ルートについてかつて取材したことがあったので、うすうす自分が感染しているであろうことは見当がついていたのよ、ピロリ菌。なので、「想定の範囲内」であり、動揺はしなかった。今後、内視鏡検査を受けて、除菌治療するのかしないのか等々が待ち受けているが、とりあえず、安堵。


そして、この1月に人員が補強され、2か月がたった今。激務から解放されつつある。なんという幸せ!


前回、書いた「逃避行」もだったが、「コロナ禍でいろいろ我慢していたことのありがたみ」を100倍ぐらいの勢いで感じるようになっている。温泉に入った瞬間に「細胞に温泉が染み渡る~」という喜びを実感した。旅館での上げ膳据え膳のありがたみ。いちいち、感動レベルであることに感動した。


先日、整体に行き「巻き肩」を直してもらった。


整体に行くことにしたのは、10日ほど前に『これって五十肩ってやつ?』な痛みが起きたから。レンジフードにある換気扇のスイッチを押そうと右腕を上げたところ、痛みを自覚。ちょっと困るなレベルの痛さであった。五十肩を得意としているとWEBサイトに書いてあった整体院に予約を入れ、とりあえずロキソニン湿布を貼った。


ロキソニン湿布のおかげだろうか。整体院の予約当日には、痛みはすっかりひいていた。なんだったのだろう、あの痛みは。とはいえ、この数か月、右手首の腱鞘炎を繰り返していた。整体は行くべきなカラダである。

整体師さんにロキソニン湿布で痛みが消えたことを報告すると「良かったですね!」と自分のことのように喜んでくれた。いい人に施術をしてもらえる幸運をかみしめる。

あれこれ、チェックしてもらう。

なんとなく、予想はついていたがやっぱり首と肩甲骨から伸びている腕の位置がズレていた。

あるべき位置にパーツを戻してもらうのが、整体である。


肩甲骨あたりをぐぐぐぐぐ~~~~~としてもらって、左右の腕を「あるべき位置」に戻してもらった。施術中、整体師さんも「はあはあ」と息があがっていたので、私の腕はかなり頑固者だったのだと思う。施術後「どんな感じですか?」と聞かれた。

「リカちゃん人形の腕を外しみたら、ちゃんとハマらなくなっちゃった、みたいな位置だったのを戻してもらったんだな、って感じです」

と率直な感想を述べた。

「まさに、そんな感じでした」

と整体師さん。ちゃんとハマらなくなっちゃった腕で生活をしていたのか、私は。


いわゆる「巻き肩」という状態になっていたのは、うっすら気づいていたが、ぐぐぐぐぐ~で元の位置に戻せることにもびっくりした。


もしも、「巻き肩」を自覚しているのであれば、みなさんも大至急、元の位置に戻してもらったほうがいい。


QOLの向上が目覚ましいよ! 腕の可動域が広がることで、こんなにシャンプーしやすいなんて! 疲れにくくなるなんて! カラダが軽くて、フットワーク良し子になって、40分ぐらい散歩しちゃったりしてるし。それまで『めんどくさいから、後にしよう』と後回しにしてきたこと。例えば『今、この30分の空き時間で駅前の銀行に行って、トイレットペーパーを買ってこよう』というようなミッションをさくさくこなせる。


こうして文字に書くと、たいしたミッションではないな。でも、日常は些細なミッションのちりも積もってでできている。用事も家事も何かのついでにサッと済ませることができれば、日常は快適なのだ。何かのついでにサクサクこなせると「あれやらなくちゃ」「これもしなくちゃ」が激減するので快適度がアップする。


例えば、通販で届いた段ボールの片づけ。

宅配便の受領と同時に開封して、購入したモノをしまい段ボールを解体して資源ごみに出す準備を整えることができたら、家は片付く。

しかし、開封して購入したモノを取り出した時点で、力尽きてしまっていた。段ボールの放置が続けば、「やらなくちゃ」はそこにい続けるわけで、気分もどんどん滅入ってくる。その根本的な原因が私の場合、「うまくハマってないリカちゃん人形の腕」のごとき腕と肩だったとは! 


従業員の生産性をアップしたい経営者のみなさんは、「整体」を福利厚生にしたほうがいい、と思う。日本人の生産性が低いのは、「巻き肩」のせいだと真剣に思う。そのぐらい、別人レベルのビフォア、アフターである。


ちなみに、私は「巻き肩」にならないように、自宅ではラップトップPCにモニターをつないで、大きいキーボードを使っている。小さいPCの小さいモニターと小さいキーボードが「巻き肩製造機」だということは、取材経験で知っていたのである。それでも、立派な「巻き肩」になるのだからPCってこわいわ。従業員に支給しているPCが「小さい」企業はほんと、整体を福利厚生にしたほうがいいです。


もちろん、腕だけでなく骨盤や脚も正しい位置にしてもらっている。歩きやすくなって、急に自宅が駅前のスーパーから「近く」なったような気がする。住人が整体を受けることによって、心理的駅近物件になるとは。まさに、気の持ちよう。


3月になって振り返ると、2月は「自分、立て直し月間」であったな、と思った。こまめにメンテナンスすることももちろん大事であるが、私のように短期集中で実施すると、ビフォア、アフターを明確に実感できるので、かなりの満足度を味わうことができるというメリットがある。


2月に訪れた宿の部屋にあった、黒電話。

女将さんに聞いたところ「昔から使っていたもの」だそうだ。現在は内線電話でのみ使用されている。受話器の重さにたじろいだ。本体もかなり重くて、ダイヤル回す際に必要な力もスマホの比ではない。


「9」や「0」はダイヤルが戻るのに時間がかかるため、緊急通報には「0」と「9」が使われているという話を聞いたことがある。戻るまでの時間でひと呼吸おくことで、通報内容を整理して伝えられるように、という理由だった。

ダイヤルが戻り、電話がかかるまでの数秒で人間は気持ちを落ち着けられる生き物なのだ。


便利になった現代では、いろいろな場面でそうした「ひと呼吸」が減っている。

メールの返信は24時間以内に、というのは誰が決めたビジネスルールなのか知らないが、実際にそれを心がけるとメールのやりとりだけで日が暮れることもある。「ひと呼吸」など夢のまた夢。と言いつつも、私自身も「急ぎのメール」を送ってしまうこともあるので、自戒を込めて、であるけれど。


世の中に漂う閉塞感や焦燥感、そして「正しくない位置にあるカラダのパーツ」は便利の代償なのだとつくづく思う。



栗原貴子のでこぼこオンナ道

栗原貴子/編集・ライター、コピーライター フリーランス歴23年。広告、宣伝、啓蒙につながるクリエイティブ制作、コピーライティングが得意。2019年より きもの伝道師 貴楽名義で着付けパーソナルレッスンを中心に活動開始。きもの歴は四半世紀越え。