暗闇での遭難と生還と優しさと。<2回目のダイアログ・イン・ザ・ダーク>
こんにちは。栗原貴子です。
去る8月10日、人生2回目のダイアログ・イン・ザ・ダーク体験をした。ダイアログ・イン・ザ・ダークとは視覚障害者のアテンドの方に案内してもらい、暗闇の中を白杖を使って90分体験するエンターテインメントである。
私の1回目の体験の記事はこちら。よろしかったらご覧くださいませ。
さて、2回目の体験は自分の神話塾の実践会での催しだったこともあって、告知された瞬間から私は大変、行きたかった。けれど、私はいい子ぶって「未体験の人に譲ろうかな」などと口にした。なぜなら、人数に限りがあることと、ダイアログ・イン・ザ・ダーク東京が非常に世知辛い事情で8月いっぱいでクローズとなるからである。
そう。私は長年いい子ぶってきた。そのツケがいよいよどうにもならぬ、というところまできて、自分の神話塾で学んだくせに。性懲りもなくまた、いい子ぶろうとしていたのだ。
しかし、自分の神話塾主催の冨永のむ子さんは、そんなことはすっかりお見通しであった。のむ子さんからの優しい問いかけに、私は自分の「本当は行きたい」という気持ちを表明した。いい年をして「ほんとはおトイレに行きたいんでしょ?」とお母さんに図星された子供のような心境であった。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク当日。
私たちは総勢10名のグループで暗闇へと出発した。
1回目のとき、暗闇に入ってからしばらくの間、私の脳は「見えない」ことに納得せずに、目のあたりの筋肉がギューッとしていた。筋肉をいろいろ動かしてピント調節機能を駆使して必死に「見よう見よう」としたのであろう。脳が「見えないんだ」と観念するまでにしばらく時間がかかった。
2回目ともなると、私の脳も「見えない」ということをすんなりと受け入れた。ギューギューと目の周りの筋肉が「ピント調整中ですよ!」とアピールしながら収縮することもない。私の脳も学習能力がちゃんと機能しているようでひと安心である。
ところが。
私はどうも「声を頼りに方角を理解する」という機能面が弱いらしく、360度全方向から聞こえるような気がするのだ。これは、前回にはなかった発見である。『みんな、すごいな~。なんで、あっちだってわかるんだろう?』と感心していた。さらに言えば、私は「声で誰か」を理解する能力もいまひとつパッとしない上に、耳だけで名前を覚えることが困難なのだと悟った。日頃、店員さんの名札チェックを怠らない私は「さっきの店のあの店員さんの名前は〇〇」などと、名探偵並みの観察眼を披露して得意になっていたので「名前を覚えるのは楽勝」だと思い込んでいたのである。
私は文字で見ないと覚えられないのだ。
よくよく考えれば、日頃から聞き間違いも多いじゃないか。デパートで防犯アナウンスが流れたときに『パンプキン詐欺などという新しい犯罪が?』と驚き、「ねえ、パンプキン詐欺って何?」と妹に聞いたら「バカっ。還付金詐欺だよ」と怒られたのは私だ。「アトレ目黒店は8月〇日は給料日です」というアナウンスに『いちいちお客さんに給料日を発表?』とビックリしたのは誰だ? それも私だ。給料日じゃなくて休業日だった。
耳で聞いた情報の理解が怪しいと気づいたのは新発見だったが、まだ暗闇の中である。私は「こっちだよ~」と声のする方へと白杖をつかって歩いて行った。すると「ここだよ」と男性が手を取ってくれた。男性か女性かはさすがのわたしでも声でわかる。360度全方向から聞こえるような気がしていた割には、私もなかなかできるじゃないか!
男性は私の手を取り「ここに座って」と私をいざなった。
「ありがとう」と私が腰かけたのは、男性の膝の上だった。「あっ、膝の上に座っちゃった!」というとなぜか男性が「すいません」と謝った。私も「すいません」と返す。あたふたと膝ではない場所に腰掛けたそのとき。
たかちゃーん
たかちゃーん
たかちゃーん
遠方から私を呼ぶ声が聞こえてくるではないか。どういうことだ? 私は今、このグループの……。
あ、もしかして
この人たち、
違うグループ?
なんと、私は遭難しているくせに、自分が遭難していることにすら気づかず、ちゃっかり違うグループにジョインしていたのだ。ジョインしたグループでは突如、人数が増えるという怪奇現象におののき、ざわついていたのだが、お膝の上に座るという個人的なハプニング中だった私はざわつきに気づかなかった。
たかちゃんは
ここでーす!
自分のことを一人称ちゃん付けで呼び、さらに大声で叫ぶなんてさすがの私もこの年になると、かなり照れくさい。しかし、暗闇では「わたし」というのはかえって不親切な発言になるのだから致し方ない。
仲間たちからの呼びかけに答えると、すぐさまアテンドの方が迎えにきてくれた。暗闇でこんなに素早く動けるなんて、本業は忍者なのかもしれない、とお手数をおかけしている身分でありながら、ファンタジーにひたっていた。私は忍びに守られて刺客から逃げる姫の役だ。束の間の姫プレイ。
無事に仲間のいる場所に戻った姫、ではなく私は、しばらく放心状態だったらしい。私が放心している間に、もうひとりの遭難者の救助が行われていた。この2名は絶対に登山をしてはいけないタイプであるので、心したい。
遭難者が無事、帰還して全員が揃ったところで、ダイアログ・イン・ザ・ダークの「出発」にちなんで、「みなさんの出発は?」と問いかけられた。しかし私は「戻ってきたばかりで、出発については考えられません」といったそうだ。そうだ、というのは後で仲間が教えてくれて、そんなコメントをしたことを記憶したからだ。「え? 私、そんなこと言ったの?」とビックリした。ホラーである。
暗闇の中では互いに声を掛け合い、「誰か声を出して」とお願いもする。これから自分がする動作を「座ります」などと、前もって口にすることも大事だ。だまっていたら何も伝わらない。してほしいこと、今の状態をちゃんと自分で口にする必要性に迫られる。そういうコミュニケーションを取っていると、次第に心の距離が近くなっていくのがわかる。
同時に「見える者同士」のコミュニケーションに、いかに言葉が足りないか。
相手の顔色や動作で「忖度」しすぎているかを思い知る。
2回の体験を経て、私は自分で思っていたほど、しっかりしていないことを痛感した。思わぬ弱点も発見した。人生の大半をなんでも「自分で頑張ろう」としてきて、力が入り過ぎていたのだと思う。
暗闇でも仲間たちは私がいないことに気づいてくれた。私が、どこのどなたかわからない殿方の膝の上に座っているなんて知らない仲間たちは、かなりヒヤッとしたと思う。人知れず倒れているということだってありうるしね。
ビックリさせて、
みんな、ごめんね。
そして、ありがとう。
本当に、ありがとう!!
ダイアログ・イン・ザ・ダークは誰にとっても素晴らしい体験になる場所。
そんな素晴らしい場所がクローズだなんて残念にもほどがある。でもね、これは「出発」。事情がめっちゃ世知辛いけれど、クラウドファンディングを通じて私たちも応援できます!
今日も読んでくださって、ありがとうございました!
皆様の毎日に「ププッ」と笑顔が溢れますように♫
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